2008年10月11日(土)
すい臓癌の友人(完結・5/5) [診察室より]
平成19年6月から12月までは、すい臓癌発見から死に至るまでの2年間のうちで、精神的にも肉体的にも充実した期間のようでした。言い忘れていましたが、1回目の手術後からは、彼の性格に大きな変化が見られました。それまでは、他人を傷つけないように気を使う所が多々見られたのですが、この頃からYES、NOを明快に表に出すようになって、いわゆるキレが良くなったなと私は感じていました。この事を本人に告げると、「さすがにメシが食えなくなって、手術するしかない状況に追い込まれて、手術して腹の中全体にガンが散らばっているよと告げられれば、開き直るしかないでしょ!」と笑いながら教えてくれたのを、私は忘れることができません。
この頃、私は彼に体力をつけさせることが肝心だと思っていましたので、よく彼を近所の鳩吹山に誘っていました。その結果、12月には河口湖マラソン(10km)を完走するまでに回復していました。この体力回復と、腫瘍マーカーの低下は、故人も生前、夢を見ているような気持ちであったと述べていると同時に、私も医者として、すごいことが現実に起こることがあるのだなと思い、このままどんどん良くなることを期待していました。
この時点で学んだ事(故人の教え)
@ 早寝早起きに徹する事
A 朝ご飯はしっかり食べる事(ヨーグルトとパイナップルは必ず食べる)
B 体力作りを兼ねて犬の散歩を必ずする事
C @〜Bが終わったら、家の中でゴロゴロしていないで、自分の好きな事をする
以上、4点だそうです。
これを聞くと、昔の養生訓に書いてあることのようですが、これが現代人にはなかなかできなくて、病に冒されて行くのだなと思いました。何事も基本が大切なのです。
平成20年1月になると、この腫瘍マーカーの値が、反転して上昇に転じるのです。それでも3月頃までは、お腹の様子も目立って悪くはなかったようです。4月頃からは、お腹の張りが強くなり、はた目にも元気がなくなって行く様子が手に取るようにわかるようになりました。
6月には、2度目のバイパス手術を受けることになります。このときの開腹時の所見としては、肝臓にも癌細胞の転移が肉眼でも確認できたそうです。ほどなく退院することになりましたが、やはり以前とは違って、気力がなくなっていることは、多くの友人が感じていました。故人はこの頃、「お腹の調子がいつ悪くなるかわからないから、外出することができない」と嘆いていました。
そうこうしている間に、8月に入って、3回目のバイパス手術を受けなければならなくなってしまい、手術は成功したものの、そのまま体力は回復することなく、9月13日を迎えることとなりました。
この2年間の彼のすい臓癌との戦いを見てきて、私は医者として癌患者を診る立場は何度も経験したことがありましたが、友人として患者側に立って癌患者を経験することができたと思います。そこから多くの貴重な経験を得ることができ、人間は生活態度や考え方が変わると、実に様々なことが変わってくるのだということを、身をもって教えてくれた友人には、大変感謝をしております。
この経験を生かして、私自身の今後の生活および、開業医として多くの患者さんの役に立たせていただければ、と考えている次第です。
Posted by 福田金壽 at 21時38分
コメント
友人でもあり医者としてもあり「何故救えなかったのだろう!?」と言う思いが十分伝わりました
昨今医学は「算術」と考えられている様に思いがちですが、筆者さんのこのレポートを拝見させて頂くと医学は「仁術」という事を認識させられます
ありがとうございました
そしてご友人のご冥福をお祈り申し上げます
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